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今日ボクが見た風景

孫崎さん、ちょっと待って

元老、西園寺公望が明治期の首相のとき、ある男に駐フランス大使の白羽の矢を立てた。ところが、「東京に老母を残して赴任する意思はない」と固辞される。

 西園寺はあきらめない。「熊本の第五高等学校に在校する(この男の)長男を、東京の一高に転校させれば老母に孝行できる」。当時の旧制高校では、入学後の転校は認めていなかったが、一高生の大反対を押しのけ、西園寺は自らの方針を通した。



 この男、栗野慎一郎。筑前福岡藩に生まれ、抜擢(ばってき)されて米ハーバード大に留学した。外務省に入り、駐ロシア公使を務め、東京に戻っていたところだった。フランス赴任を承諾すると、日仏協約締結や通商条約改正交渉に手腕を発揮し、西園寺の目が節穴でなかったことを証明した、という。



 ここまで竹内洋氏の著書によったが、こんな話を思い出したのは、民主党が、鳩山由紀夫氏を最高顧問(外交担当)に復帰させると聞いたからである。自ら外交担当を求めた、という鳩山氏の厚顔にも、民主党の節操のなさにもあぜんとし、西園寺の大使選任までの経緯と引き比べていた。



 いま、外務省の元国際情報局長、孫崎享(うける)氏の著書『戦後史の正体』(創元社)が売れている。孫崎氏は、首相当時の鳩山氏に沖縄の普天間米軍基地の県外移転を進言した。それが「最低でも県外」の鳩山発言につながった。そして今回も、鳩山氏の復権と、孫崎氏のベストセラー誕生が奇妙に足並みをそろえている。



 『…の正体』は「米国からの圧力」を軸に、日本の戦後史をたどる。対米姿勢を「自主」と「追随」に両断し、戦後の指導者を腑分けすると、鳩山氏は米国の圧力に抗し、外交の「自主」路線を進めようとした“善玉”になる。保守派の本流を築いた吉田茂元首相などは「追随」のあしき伝統の権化のように描かれる。



 「鳩山首相は普天間基地を『最低でも県外移設』と提言し、つぶされました。このとき直接手を下したのは米国人ではなく、日本の官僚、政治家、マスコミです」。こう書くことで、鳩山退任にまたも、米国の力が働いたことを暗示する。しかし安全保障の要、日米関係を混乱させた無定見を拒否したのは日本の国民であり、そのことを「自主路線の挫折」によって覆い隠すことはできない。



 旧知の孫崎氏の労作にケチをつけるようで心苦しい。だが、どうしても一言したい、と思った。



(編集委員 平山一城)




http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121026/plc12102608080003-n1.htm


by hinoe-e | 2012-10-26 10:45 | 歴史